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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(オ)712号 判決

上告人

椎原喜作

代理人

川崎菊雄

被上告人

有村多恵

代理人

村田継男

被上告人

今村尚子

被上告人

鹿児島市農業協同組合

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人川崎菊雄の上告理由第一点ないし三について。

確認判決は当事者、口頭弁論終結後の承継人またはその者のため請求の目的物を所持する者に対して効力を有することは、民訴法二〇一条の明定するところである。ところで、上告人の主張する福岡高等裁判所宮崎支部昭和三九年(ネ)第二〇号事件の口頭弁論終結の日は昭和四〇年九月二七日であるのに、被上告人有村は荒武禎年から本件土地、建物を昭和三八年三月一九日取得し、同日付をもつて所有権移転登記を受けたものであることは原審の適法に確定した事実である。そうとすれば、同被上告人は、上告人と荒武禎年間の右福岡高等裁判所宮崎支部昭和三九年(ネ)第二〇号事件の判決の既判力を受けないものであり、この点に関する原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は採用できない。

同四について。

予告登記は、登記原因の無効または取消(善意の第三者に対抗できる場合に限る。)による登記の抹消または回復の訴の提起のあつた場合において、このことを第三者に警告するためになされる登記であり(不動産登記法三条、三四条)、不動産の既存登記に関し右訴の提起のあつたことを公示して善意の第三者を保護することを目的とするものであつて、登記本来の効力たる対抗力の賦与により当事者を保護する目的のものではない。したがつて、上告人主張の予告登記の有無は、上告人の権利の存否、対抗力になんら関係することのないことは明らかである。論旨は独自の見解であつて、採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎 藤林益三)

上告代理人の上告理由

第一点一〜三〈省略〉

四、次に予告登記の効力について

本件不動産について、上告人が荒武禎年に対し所有権抹消の登記請求の訴を提起した時に予告登記がなされている事は第一審判決の認定しているところである。又右予告登記が職権でなさるべきことも不動産登記法に明記されている。

予告登記の効力に関し、第三者に対し勝訴判決の効力を主張し得るとする見解(石田物権法編、松岡物権法)と之と異なる見解がある。大審院昭和三年(オ)第七九六号、同四年二月二〇日判決、我妻判例民事法二七頁に於て予告登記の効力は、判示の例に於ては第三者に対抗し得ないと判示している。

しかしながら、予告登記を第三者に対する警告という趣旨に解する時、その予告登記に何等の法律上の効力が付与せられない場合は、警告とは文学上の表現にすぎず、何等の法律的意義をもたない無用なことにすぎない。

予告登記制度が法定されている以上、予告登記には何等かの法的効力を認めるべきであり、予告登記は最少限度その予告登記のなされた本件の判決の事実認定はくつがえし得ない効力を有する。従つてその限度に於て第三者に対抗し得ると解すべきである。

被上告人は荒武禎年の妻であつたものであり(後に離婚しているが)本訴提起のあつたことは被上告人が所有権取得の登記をなした当時すでに知つていた事は被上告人の証言に於て認めているところであるから、予告登記の効力としても前判決の事実認定の効力は被上告人に対しても同一であるべく、又かかる場合には予告登記をもつて被上告人に対抗し得と解さるべきである。

原判決は、この点に於て予告登記に関する力につき法律の解釈を誤つた違法がある。

しからば被上告人有村から権利を取得した他の被上告人もその権利を取得する理由がない。               以上

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